何者でもないことの怖さ。何度でも読み返したくなる『仏像ぐるりの人びと』感想

2024-07-09

小説

t f B! P L

 『仏像ぐるりのひとびと』麻宮ゆり子



私の大好きな作品で、何度も繰り返し読み続けている本を紹介します。

あらすじ

仏像修復という珍しい仕事のアルバイトを通じて、主人公の雪嶋直久やその周りの人々の心も修復していく物語です。
この作品を読んでいると、自分の気持ちまで修復してもらえている気分になり、どんな時でも自分軸を見失うことなく頑張り続けようという活力が湧いてきます。

雪嶋直久は、大学受験浪人中の交通事故や、家族との関係などから不本意な進学をし、鬱屈とした生活を送る大学生。
ある日大学で、仏像修復のアルバイト募集を見かけて、昔から仏像が好きだった雪嶋は応募し、仕事を通じて自身の心の傷や自分のやりたかったことと向き合っていきます。

登場人物もバラエティに富んでいますが、誰もが少なからず心に傷を抱えていて、それぞれの描写にハッとさせられることも多いです。
実生活の中でも、ああ、こういう人もいるよな、相手の裏側を考えることの大切さのようなものにも気付かされました。
自分と他人では、同じ物事でも感じ方や考え方が違うのは当たり前なのに、その前提を忘れて接してしまうことも多いですよね。
相手の立場に立って物事を発言したり、行動したりすることを心がけたいものです。

私の思い入れのあるセリフ

私がこの作品を読んで一番救われたのが、

挫折なんてこの世にはない。全て経験でしかないんだよ

(『仏像ぐるりのひとびと』p.221より引用)
というセリフでした。

私にも雪嶋と同じように、どこにも属さず、何者でもない時期がありました。
(雪嶋の場合、どこに属していない上に、身体を動かすことすらままならない時期があったので、私に比べるとより重いですよね・・・。)
今考えれば大したことではないし、長い人生で見たら失敗でも遅れでもなんでもないのですが、まだ19歳という当時の私には、何者でもないということは、とてつもなく恐ろしいものでした。
今となれば、当時恐ろしいと思えていたことが正常というか、良かったことだったのかもしれないと思えるのですが。
このセリフによって、心の負担が軽くなった気がしましたし、ここで気落ちしている場合ではないのだと考えるようになりました。

何者でもなかった時期を脱した後も、私はことあるごとにこの作品を読んで自分を奮い立たせています。
自分がやりたいこと・やるべきことに迷った時、心が少し疲れているなと感じた時、なんでもない時など。
どんな時にもこの作品によって、自分自身を修復してきたような気がします。
この作品はすっかり私の心の拠り所の一つとなっています。

仏像修復の世界を覗き見ることもできるので、仏像にも興味が湧き、実際に観にいきたくなりますよ!
心に寄り添ってくれるような作品が読みたいという人には、とてもおすすめです。

ぜひ読んでみて下さい。

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教養のある人になりたい「私」が読書を通じて教養人になる様子を記録しています。 小説や経済書などいろんなジャンルを紹介します。 ガジェット類など、本以外のことも時々(頻繁に?)載せていきます。更新頻度はまちまちです。

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