麻宮ゆり子著『敬語で旅する四人の男』を読んでみました。
以前、このブログでも紹介した『仏像ぐるりの人びと』と同じ作者で、ずっと読んでみたいなと思っていた作品の一つでした。
当時の記事はこちらから↓
敬語を使うような関係性の4人
タイトルの通り、この作品では敬語を使うような関係性の4人が旅をしています。
旅を共にするのは、「真島」、真島の会社の先輩である「斎木」、斎木と同じ大学出身の「繁田」、繁田の呑み仲間の「仲杉」の4人。
この4人は特別仲が良いというわけではなく、敬語を使い合うような関係性です。
その4人が作中ではいろんなところに旅をするようになるのですが、まずその設定が面白いですよね。
旅行って仲の良い人と行くものかなと思うのですが、斎木がきっかけでこれまで赤の他人だった人とも旅を共にするなんて、私にはできないかも・・・・。
ただ、最初はお互いぎこちない場面もありますが、他人だからこその心地よさみたいなものも見えて、仲間意識が芽生えていく様子が面白かったです。
身近な人には言えない話でも、ある程度距離感のある関係性だからこそ打ち明けられたり、頼ったりできることもありますよね。
登場人物それぞれに抱えるものがある
旅をする4人はもちろんのこと、他の登場人物にも何かしら抱えているものがあり、麻宮ゆり子は”人間”というものを描くのに長けた作家だなあと思いました。
本書の構成は4章あり、
・敬語で旅する四人の男
・犯人はヤス
・即戦クンの低空飛行
・匡の通り道
となっており、それぞれ上から順に真島、繁田、仲杉、斎木の人物像や背景を知れるようなエピソードとなっています。
4人の性格、外見の設定が凝っていて、自分の頭の中でどんな人間かを具体的に組み立てていくのがとても面白かったです。
本作は2014年に出版されたものですが、2024年の今読んでも考えさせられるような題材が散りばめられています。
同性愛、離婚、子供、教育、親、結婚観、マイノリティ、家族、などなど。
とにかくこの一冊にこんなに要素を詰め込めるのか!と驚くくらい、社会的な問題や世の中の人が抱えている悩みなどに向き合わされました。
以前紹介した『仏像ぐるりの人びと』でも、仏像修復を通じて人の抱えるさまざまな背景を見ていく描写が秀逸だったのですが、『敬語で旅する四人の男』でも人間の描写が素晴らしかったです。
本作を通じて心を癒す
私が特に印象に残ったのは、仲杉にスポットを当てた「即戦クンの低空飛行」でした。
仕事や彼女との関係がうまくいっておらず、でも吐き出すこともできず、ニコニコ笑いながら辛い日々を受け流しながら過ごしていた仲杉。
そんな仲杉を見かねて、休息を作るべく真島が旅行に誘います。
初めて4人で旅行したときに比べ関係性も変化してきて、真島が仲杉を気にかけて救い出そうとするようになっているのが、読みながら感慨深くなりました。
(ちなみに斎木も気にかけてくれている描写があり、なんかエモい!と思いました。笑)
結構現代を生きる人が陥りやすいところに、仲杉もハマってしまったのだなと思いました。
ストレス社会で、忙しない日々を送る中で、自分を空っぽにできる時間を作ることの大切さをしみじみと感じさせられます。
仲杉のように、周りに真島のような手を差し伸べてくれる人がいれば一番理想ですが、人間関係が希薄になりつつある現代では、それも難しいのかもしれません。
ただ、『敬語で旅する四人の男』を読むことで、作品が真島のように手を差し伸べてくれる存在になっている気がします。
旅を通じて仲杉が立ち直っていく姿を読んでいると、こちらまで心を修復してもらえたような気持ちになります。
麻宮ゆり子のすごいところ
私の好きな本トップ3に入るくらい大好きな作品が、先ほどから何度も出している『仏像ぐるりの人びと』なのですが、本作とも共通しているのが、読者を癒してくれるという点です。
心が疲れていたり、日々のストレスでうまく身体を動かすことができなかったりするときに、麻宮ゆり子の作品を読むとなんだか心がスッとする感覚があります。
パッと気持ちが晴れやかになるというよりは、ドロドロとした嫌な感情を吸い取ってくれるような感じ。
マイナスだったものを、ゼロに戻してくれて、プラスにするために方向を示してくれるような感覚があります。
人間に寄り添った作品を描けるというのが、麻宮ゆり子のすごいところだと思いました。
『仏像ぐるりの人びと』も『敬語で旅する四人の男』も麻宮ゆり子作品の中では初期のものかなと思うので、他の作品もどんどん読んでいきたいです。
そのうち作家買いするかもしれないなと感じるほど、私にとっては大切な作品となりました!
気になった方はぜひ。
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