『ラブカは静かに弓を持つ』安壇美緒 感想 | とても静かな音楽スパイ小説

久しぶりに小説の感想です。
さまざまな賞を受賞している『ラブカは静かに弓を持つ』を読んだので、読書感想文を記していきたいと思います〜!
『ラブカは静かに弓を持つ』のあらすじ
幼い頃の経験から、チェロや人との深い関わりを避けて生きてきた主人公・橘。
ある日、上司に音楽教室への潜入調査を命じられ、チェロ講師・浅葉のもとでチェロを習うことになる。
全著蓮のスパイとして証拠集めを行う一方、音楽教室での出会いや演奏の魅力を感じることで、橘の心は揺れ動く。
音楽をやっていた人なら一度は考えること
私がこの作品を読んで一番最初に感じたのは、結構設定がリアルだなということ。
しっかりと基礎から叩き込まれるタイプの先生に習った経験がある人なら、何となく将来は音楽関連の仕事がしたいなぁと考えることが少なくないと思います。
真っ先に思いつく音楽の仕事といえば、演奏家として食っていくことですが、なかなかハードルが高い。
一般的な社会人として音楽の仕事をするとなると、思いつくのは、楽譜出版社、楽器店、音楽教室、学校の先生、そして全日本音楽著作家協会(JASRAC)職員ではないでしょうか。
私も学生時代に職業として調べていたことがあります。
橘は、成り行きの中で条件の良い就職先として全日本音楽著作権連盟(通称・全著蓮)に辿り着いたようですが・・・。
橘の同僚である、三船は先述したのと同じような経緯で全著蓮への就職をしたのではないかなぁ、と感じました。
読了後に感じたこと
読み終わった後に感じたのは、とても静かなスパイ小説だ、ということ。
本屋さんでポップを見た時に、"音楽×スパイ"とはなんぞや、と気になっていたのですが、読み終わると本当に静かな物語でした。
ストーリーの起伏が穏やかというわけではなく、"ラブカ"とタイトルにあるように、深海というか息をひっそりと潜めるようにして読み進めた感覚がありました。
ラブカは比較的海の深い所に生息するサメで、数が少なく詳しい生態はほとんどわかっていないそうです。
Wikipediaなどで検索してみましたが、結構気持ち悪い見た目でした・・・。
橘は、設定では見た目が芸能人並みに良いので、葛藤する心の中の様子がラブカということかも・・・。
とにかく、深く、暗く、ひっそりと。
読んでいる間は水の中にいる時のような、孤独を感じながら物語を追っていくことができました。
ちなみに私は以前、別ベクトルの"音楽×スパイ"作品を読んだことがあります。
須賀しのぶ著『革命前夜』です。
こちらも面白く歴史も学ぶことができる小説なので、今度記事にしてみようかな。
書き下ろしスペシャルショートストーリーもぜひ読んでおきたい
購入した書籍の帯に、作品関連コンテンツのQRコードが添付されていて、そちらを覗くとショートストーリーを読むことができます。
チェロ講師・浅葉から見た主人公・橘の印象を知ることができて、これはぜひ読んでおかなくては!という内容でした。
『AR橘樹チェロ演奏』というコンテンツもあり、そちらも見てみたかったのですが、私が覗きに行った時点では、すでに公開期間が終了していて残念・・・。
この作品は購入してからしばらく積読していたので、読むのを先延ばしした自分を今恨んでいます・・・。笑
何か前進したい人に読んでほしい
私はこの作品を読んで、その場で足踏みではなく、なんでも良いから一歩前進したい!という気持ちになりました。
チェロ講師・浅葉が、生徒たちをみて自分も最後の足掻きをしたいと行動を起こすのですが、その場面を読んで私も同じように一歩でも人生を前に進めたい、と感じました。
音楽をやっていない人でも、自分の今の立ち位置に満足していない人なら、この作品読むことでほんの少しでも行動に移すことができるのではないかな、と思います。
気になった方はぜひ。